最高裁判所第一小法廷 昭和40年(オ)210号 判決 1966年9月08日
上告人
清水八重治
右訴訟代理人
白上孝千代
被上告人
服部正巳
右訴訟代理人
長谷川貞市郎
主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人白上孝千代の上告理由について。
原判決の確定したところによると、上告人と被上告人との本件売買契約は、第三者たる訴外山邑酒造株式会社の所有に属する本件土地を目的とするものであったところ、原審認定の事情によって売主たる被上告人が右所有権を取得してこれを買主たる上告人に移転することができなくなったため履行不能に終ったというのである。
そして、本件売買契約の当時すでに買主たる上告人が右所有権の売主に属しないことを知っていたから、上告人が民法五六一条に基づいて本件売買契約を解除しても、同条但書の適用上、売主の担保責任としての損害賠償請求を被上告人にすることはできないとした原審の判断は正当である。
しかし、他人の権利を売買の目的とした場合において、売主がその権利を取得してこれを買主に移転する義務の履行不能を生じたときにあって、その履行不能が売主の責に帰すべき事由によるものであれば、買主は、売主の担保責任に関する民法五六一条の規定にかかわらず、なお債務不履行一般の規定(民法五四三条、四一五条)に従って、契約を解除し損害賠償の請求をすることができるものと解するのを相当とするところ、上告人の本訴請求は、前示履行不能が売主たる被上告人の責に帰すべき事由によるものであるとして、同人に対し債務不履行による損害賠償の請求をもしていることがその主張上明らかである。しかして、原審認定判示の事実関係によれば、前示履行不能は被上告人の故意または過失によって生じたものと認める余地が十分にあっても、未だもって取引の通念上不可抗力によるものとは解し難いから、右履行不能が被上告人の責に帰すべき事由によるものとはみられないとした原判決には、審理不尽、理由不備の違法があるといわねばならない。
従って、この点を指摘する論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく原判決は破棄を免れず、本件を原審に差し戻すのを相当とする。
よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 岩田誠)